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フランスの大統領選挙2017 最終回 [政治]

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(フランスの投票事務所。候補者の名前が書いてあるカードを封筒に入れて投票します)
 決選投票が終わって、約1週間。投票の日は、友達の家でご飯を食べていたのですが、もちろんこの選挙の話題が出ました。結果が気になっていたので、午前1時頃まで起きていたのですが、結局途中で寝てしまいました。1時でフランスの18時。大都市の投票所が閉まるのが、20時。フランスのメディアはもちろん途中経過を発表せず、投票率のみを発表していました。第一回投票の際より、投票率が低いと報道されていたので、私はちょっと心配になりました。ただ、その後、Yahooニュースのトップニュースでは、同時刻に「マクロン氏の勝利の可能性大」というような記事が出ていたので、寝てしまいました。フランスのメディアは数字を出していないので、ヨーロッパの別の支局等から情報を仕入れたのでしょうか。

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(2007年大統領選挙候補者ポスター。懐かしい顔が多いです)
 選挙翌日は、「マクロン氏圧勝」の見出しが並んでいましたが、対抗したル・ペン氏の投票率を見ると、圧勝なのかな、と思ってしまいました(一旦落ち着くと詳しい分析が出ていましたが)。ル・ペン氏の所属する党(Front National)が決選投票に残ったのは彼女のお父さんが党首だった2002年。これはサプライズだったようで、決選投票ではシラク大統領が82.21%と大差で勝利。ただ、今回は33.9%を獲得したル・ペン氏。夏には、国民議会選挙があるので、そこでどれだけ議席を獲得するのか、注目されています。

 勝利が確定した日、マクロン氏はルーブル美術館の前で演説を行っていました。特に場所は決まっているわけではなく、毎回、好きな場所で新大統領は演説をしています。ただ、ルーブル美術館の会場設営は大変じゃないかなあと個人的に思ってしまいました。日中は観光客で溢れているので、閉館後に特設会場(ステージ)の設営をしたのだと思います。となると、当日いきなり準備できるわけではないので、勝ちを見越してある程度の準備をしていたのだと予想されます。もちろん、これは両陣営に言えることですが、毎回フランスに限らず選挙があると、「負けた方の勝利演出品はどうなるのだろう」と思ってしまいます。

フランスの大統領選挙2017 討論会 [政治]

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(Le Mondeより。討論開始前、平等な発言時間のため、大きなストップウォッチが各候補の前に)
決選投票を日曜日に控えた大統領選挙、昨日(3日)は候補者同士の討論会が行われたようです。討論だけでなく、選挙運動中にも言えることなのですが、政策論争が日本と大きく異なり、面白いです。もちろん、国のシステムや歴史が異なるので、当たり前といえば当たり前なのですが、 日本に居ると理解するのが難しい話題も議論に上ります。(私が見てきた限り)印象に残っている議題は、「 (イスラム教徒のヘッドスカーフに関連して)政教分離」と「週30時間労働の見直し」でしょうか。特に後者は、さすがバカンスを楽しむ国、フランスだなあと思いました。

 今回の討論会、見る気は無かったので、新聞でどのように取り上げられているかチェックしてみました。私が購読している新聞、Le MondeにはLes Décodeurs(解読)というコーナーが数年前からあります。これは、話題になっているトピックを深く検証するというもので、私にとって身近ではない話題を理解するときによくチェックしているコーナーです。このコーナーで、今回の討論会をまとめていて、なかなか面白かったので、ここで紹介していきたいと思います。

 明らかに、アメリカ大統領選挙の影響だと思いますが、発言の信憑性について、このコーナーは説明していました。根拠の無い発言や事実と異なる発言についてはしっかり取り上げ、正しい情報を載せていました(「間違い」や「ホラ」というタグをつけていました)。

 また、毎回大統領選挙の討論の際、話題になるのがもちろん「国際関係/問題」。ここでいう国際問題というのは、もちろんEU以外の話題です。討論内では必ず「EU」と「国際関係/問題」を分けて、討論が進みます。今回の討論の要約を見る限り、「国際関係/問題」そのものというよりは、世界でのフランスの立ち位置について話していたようです。シリア問題に対する姿勢などが議論されるのかと思いきや、世界の様々な話題に関して、フランスがどのようなスタンスを取っていくのか、という発言が多かったようです。EUに関しても揺れているフランス、国の立ち位置について議論されるというのは、当たり前の流れなのかもしれません。

 またこの新聞のコーナーの最後には、「討論会中に上げられたトピック」というのを表にしていました。一番話題に上がったのが「ヨーロッパ(89回)」だったようです。それ以外にも、ドイツ、イギリス、Brexitなども多く話題に上がっていたようです。もちろん、国内の問題(雇用、治安など)の話題も出ていましたが、回数としてはヨーロッパの話題が多かったようです。

※追記:労働時間は週30時間ではなく、35時間の間違いでした。

フランスの大統領選挙2017 トリビア2 [政治]

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(記事の内容と全く関係ありませんが、中野中央図書館近くの花です)

 前回は平等な報道時間について書きましたが、今回は投票者に影響を与えない法律、です。これはテレビに限らず、新聞にも言えることですが、投票前日の夜から、投票終了まで、世論調査の発表が禁止されています。また各候補の政策などに関する報道も禁止になるので、前日のテレビはやけにニュースの量が減ります。文字通り、候補者を「寝かせる」法律です。

 投票日は朝から、選挙に関する特番が組まれていますが、世論調査も政策も報道できないので、専門家による討論もほとんどなく、ダラダラと時間が流れていきます。各候補者の事務所と中継を繋ぎ、各事務所の様子を伝えていきますが、特に事務所の様子も「結果を待っています」というような感じなので、真新しいニュースはありません。どこの国でも選挙の特番は、こんな感じだと思いますが、フランスの選挙特番は特にダラダラした感じがします 。

 ただ、この法律、適応されるのがフランスのテレビ局や世論調査会社。そのため、フランス語圏のメディアは、出口調査などを勝手にやって、勝手に予想などを報道しています(ベルギーなど)。そういったニュースをフランスの報道局は放送できませんが、各候補の事務所はそのようなニュースもチェックしています。そのため、結果発表30分ぐらいに、事務所と中継を繋ぐと、事務所の雰囲気で選挙の結果が大体分かります。「結果を発表することはまだ出来ません」と司会者や記者は一応言っているのですが、事務所の雰囲気でバレバレです。

フランスの大統領選挙2017 トリビア1 [政治]

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(2017年、エリゼ宮=フランス大統領官邸の新しい住人は誰になるのでしょうか)

1ヶ月近く遅れながら、ベトナムでのことについて書いてきましたが、小休止。来週の日曜日に迫っている、フランスの大統領決選投票について書いていきたいと思います。

 偶然にも前々回(2007年)、前回(2012年)の選挙の際はフランスに居たので、現地で選挙の行方を追っていました。投票権はもちろん無いので、「状況を追う」だけでしたが、なかなか面白い経験でした。今年は現地に居ませんが、日本から選挙を追っていました。年の始めに予想していた、あの人やこの人が立候補者リストに載っておらず、さすが先の読めない選挙だなあと思いました。

 EUの将来を左右する選挙だけあって、日本の新聞や雑誌が選挙を取り上げているので、各候補については書いていきません。今回は、あんまり日本のメディアで取り上げられていない「メディアにおける候補者の報道」について書いていきたいと思います。簡単に言うと、各メディアの報道方針/思想にかかわらず、候補者については平等に報道しなくてはいけない、という法律です。

 この法律、当てはまるのはテレビ、ラジオ、インターネットです。今年は2月1日から公式な大統領選挙運動が開始しています。3月18日に正式な候補者リストが発表となるので、2月1日から3月17日までは、候補になることを宣言/要件を満たして宣言した人達の報道は、(特に報道時間は)平等ではなくてはなりません。Aという候補に関して30分報道したら、BやCという候補に関しても30分という具合です。

 候補者リストが出て、テレビが討論会を開催するときも同様。第一回投票には、10人出馬したので、10人それぞれ平等に話す時間が与えられます。だから討論会を見ていると、各候補の下にはストップウォッチ/タイマーが設けられていて、その時間を見ながら、司会者が発言権を振り分けています。ただ、他国の同様、白熱した討論会になるので、誰もが同時に発言しているような状態にすぐなってしまうのですが。

 ただ、報道時間は平等と言っても、法律違反にならないギリギリの方法で放送するテレビ局もあります。私が好きなQuotidienという番組(風刺の強いニュース番組)は、候補者や党の名前を出さずに、上手に風刺をしたりしています。そのため、実際には必ずしも各候補者同じ報道時間にはなっていません。が、(特に泡沫候補に対して)「報道時間の平等のため・・・」と言って、泡沫候補のキャンペーンの様子なども一応報道しています。

 ただ、この報道時間には一応例外があって、それは大統領が出馬している場合。大統領としての任務もあるので、公務に関する報道はこの法律に当てはまりません。そのため、大統領が出馬している場合は、公務を行うことで、ある種のアピール、つまり選挙運動が出来てしまうわけです。2012年に出馬していた元サルコジ大統領、選挙期間中に銃殺事件があったのですが、その時の対応がなかなかだったので、その直後に発表された支持率で若干数字を上げていました。

 日本ではあまり見かけませんが、候補者のCMというのも作られ、番組と番組の間で流れます。2分弱のもので、政策やスローガンなどがかかげられます。ただ、毎回の選挙で10人近い候補が居るので、2×10分の、長い20分CMになります。夜のニュース前後ぐらいに毎日これが流れるので、結構うんざりしてきます。そのため、テレビを消す人も多いと思います。こういった中でも平等性を期すため、流す順番も毎日抽選で変えていきます。そのため、選挙期間中にある程度全員のCMを見ることになります。

 この法律、興味深いと思います。私が読んでいる新聞では「フランスは、このような法律を持つ唯一の国」と書いていましたが、さすが国のモットーの一つが「自由」だな、と思いました。アメリカの大統領選挙にも、もしこのようなルールがあったら、どのように選挙結果に影響していたのか、とちょっと考えてしまいました。

2月9日の投票後 その2 [政治]

 2月9日がもたらした「良い」影響といえるのが、このトピックに関連した講演の数が増えた、ということでしょうか。個人的に興味がある話題なので、2月9日後は、いくつかの講演へ行って来ました。そして先日は、ジュネーブ大学が(新聞社Le Temps後援の元)「Quel avenir européen pour la Suisse ?(スイスにとってどのようなヨーロッパの将来か?)」という題の大きな講演会を開きました。「ヨーロッパの将来」とかなり広いテーマになっていますが、もちろん「2月9日の投票結果を経て」という表現がこのテーマの前に付くと思います。この講演会、9時~18時までとかなり長丁場の講演会でした。同じ人が長々と話をするのではなく、細かいテーマに分けてパネリストが招待され、各自コメントを述べる、という方法で進んでいきました。私も興味のあるパネルをいくつか見てきました。

 講演会で一番の見せ場は2月9日の議案を提案した党UDCからのスピーカー。(少なくともジュネーブでは)反対意見が多く占めるので、そういった状況でどういった反論をしていくのか、気になっていました。が、実際に聞いてみると、時間制限のためなのか、作戦なのか、「質問に答えない答え」のような表現が多かった気がします。この講演会、新聞社ホームページで中継されていたため、下手なことをいえない、というのが、本音だったのかもしれません。

 意外にも、一番面白かったのは「Les cantons dans la tourmente(騒ぎの中の県)」でした。ジュネーブ州とヴォ州(Lausanneがある州)の州議会メンバーの講演でした。欲を言えば、投票で「賛成票」を投じた州議会、つまり上記2州とは反対意見の人たちも居たほうが、講演もより面白くなったと思います。

 この講演では、2州が他の州議会の説得にどうあたったのか話をしていました。2月9日以降、フランス語圏の新聞では「L’autre Suisse(もう一つのスイス=賛成した人達)」という言葉が出来ましたが、「もう一つのスイス」の説得を試みたけれど、成功出来ず、という様子が話からはうかがえました。もちろん、どう説得をしていったのかという話題も裏話のような感じで聞いていて面白かったのですが、印象に残っているのはヴォ州のライバル意識。ヴォ州にはLausanneという大きな都市があるとは言え、やはり知名度はジュネーブの方が断然上。経済力などを考えても、ジュネーブの方が上のような気がします。そのせいか、このヴォ州の議員は「ジュネーブ州に比べると、参加率が上だった」や「反対率もジュネーブ州より高かった」という発言をしていました。ジュネーブ州の議員は「ヴォ州のメンバーと協力して」とあくまでも、フランス語圏州の団結を強調していたのに比べると大きく異なり、笑ってしまいました。「スイス」という国より、あくまでも州、そして自分の住む村(市)出身という意識が強いのだなあと思いました。

2月9日の投票 最終回 [政治]

 この結果を受けて慌てたのはEU諸国。読んでいる新聞がフランスのものだけですが、フランスももちろんこの話題が新聞にたくさん出ていました。投票前はほとんど報道がなされていなかったのですが、10日から一気にこの話題が新聞に載っていました。理由はもちろん、EUとの条約見直し。

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 スイスはEUに加盟していませんが、その条約の一つ、シェンゲン協定に入っています。この協定の特徴は、libre circulation(自由な移動)、つまりこの協定に入っている国の間は、パスポートなし、税関なしで自由に行き来することが出来ます。そして、こういった協定に触れるであろう人の例が、ジュネーブでfrontalier(越境者)と呼ばれる人達。これは主に、フランスに住んで、ジュネーブで働く人のことを指しています。渋滞の原因や税金の問題などで、あまり歓迎されていないfrontalier(越境者)ですが、かれらがジュネーブの労働人口の多くを占めているのも事実。例えば、夏に私が大学の事務所でアルバイトした時も、事務で働いていた人達全員がフランス人でした。そして、この投票結果によって、こういったフランス国籍を持つfrontalier(越境者)にも大きな影響が出るのではないか、とフランスは心配しているわけです。

 また、私は全く考えてもいなかったのですが、この投票、交換留学協定にも影響が出るようです。ヨーロッパには「エラスムス」という留学制度があります。学費を受け入れ大学に払わなくて良い、などという点において、日本の交換留学の制度に似ています。シェンゲン協定の見直しとなれば、このエラスムスにも制限がかかるのではないか、と大学関係者は心配しているようです。イタリア、ドイツ、フランスなどの国と隣接しているスイス、EUとの条約を見直しさせてはならない、とEUは対応を色々考えているようですが、どうなるのでしょうか。

 投票から約1週間経ちましたが、今でも新聞でこの投票結果についての記事を見かけます。スイスがどう制限を設けるのか、どうEUと「うまく」やっていくのか、興味深いところです。

2月9日の投票 その3 [政治]

 さて、この投票翌日のスイスの新聞は投票結果を示す見出しばかりでした。ドイツ語の新聞は読めないので、どういった見出しになっていたのか分かりません。が、(反対票の多かった)フランス語圏の新聞は「黒の日曜日」や「他のスイスを平手打ちにした勝利」、「『Oui』からの教訓」と言った見出しが並んでいました。

 議会も大慌てで、会見の様子なども新聞にたくさん出ていました。大学の政治学部の教授も結果の分析として、記事を載せたりしていました。こういった記事を要約してみると、いくつかのポイントが見えてきました。

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(ポスターの前に並ぶ、新聞各紙。※投票前数週間前の写真です)
①これが直接民主主義
 街にあふれるポスターを見る限り、扇動的な物が多かったです。この議案を提出した党のポスターを見ると「スイスの土地を守るため」といった愛国主義的な表現が多かった気がします。一般市民の人気を獲得するという点のおいて、「成功した」と言える戦略だった、と思います。直接民主主義であるため、どれだけ多くの市民の票を獲得するかがミソ。市民の意見を聞きやすいシステムだと思いますが、こういった扇動的な宣伝に「ながされやすい」というのも特徴の一つかもしれません。

 またこれは個人的な感想ですが、議案名も「大量移民反対」となっていて、いったん投票するとなると、少し分かりづらいです。「『大量移民反対』に反対」と言われると、一瞬「つまりどっちだ?」と思ってしまいます。この名前がどういった由来でつけられたのか分かりませんが、ちょっと分かりづらい名前だと思いました。

②「交渉の余地はあり」が正式表明
 この議案を提案した党(野党)、議会、そして新聞で解説されていたのは「交渉の余地はあり」ということでした。が、現実的にはちょっと難しそうです。

 スイスでは様々な事柄を投票し、日本語で「国民投票」と呼ばれるものにもいくつか種類があります。Initiative(発議)と呼ばれるのが、国民からの提案。一定数の署名を集めると、スイスの憲法に対してInitiativeを出すことが出来ます。このInitiativeに対して、投票が行われるというわけです。国民からの「提案」であるため、投票結果を議会は必ず受け入れなくてはなりません。今回の提案、融通の利く表現も多いとも言われています。が、書かれている内容を実行しなくてはならないのも事実。例えば、今回のInitiativeでは「外交官や国連職員を除く、外国人労働者/入国者に発給する滞在許可証に制限を設ける」となっていました。どういった制限を設けるのか、という具体的な方法、数字は書かれていません。が、「制限を設ける」とはっきり明記しているので、どういった形であれ、議会は制限を設けなくてはなりません。どういった意味で「交渉の余地がある」のか、少し疑問の残るところです。

③さてどうするEU?
 このInitiativeで更に重要なフレーズが「(このInitiativeに関連した)国際条約の見直し」です。「国際条約」と言ってはいますが、もちろん指しているのはEUとの条約です。この決定に慌てたEU加盟国、投票翌日2月10日のフランスの新聞ではこの結果が大きな話題となっていました(次回に続く・・・・)

2月9日の投票 その2 [政治]

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 新聞がどう取り扱っていたかなどは、この先書いていくとして、この投票結果の分布図を。以前にも紹介したRöstigraben(Röstiの壁)、ドイツ語圏とフランス語圏スイスにおける考え方の違いが、今回の投票結果にもはっきり出ていました。地図の赤い部分、つまり「大量移民反対」の議案に反対票を投じた州、は全てフランス語圏。上の小さな県はBâle-Ville州は一応ドイツ語圏ですが、フランスとドイツ2ヶ国と国境を接しているので、フランス語も結構通じる州。ジュネーブには及ばなくても、国際都市(州)と言えます。そして緑(賛成)の中にポツンとある赤(反対)の州はチューリッヒ州。これも、国際都市チューリッヒがある州のため、提案には反対。チューリッヒ州は例外ですが、フランス語圏とドイツ語圏にきれいな「壁」を作り出した投票結果となりました。

 この結果を見た時に感じたのは、Jura州独立の意味、でした。つい最近、と言っても1979年にBern州から独立した、スイスで一番新しい州。Bern州はドイツ語圏、Jura州はフランス語圏。投票結果もJuraが反対、Bernが賛成となっていました。もし、独立していなかったら多数派のBernの票(=賛成)のみになっていた、というわけです。この投票を機に、Jura州独立の意味を感じるとは思ってもいませんでした。

2月9日の投票 その1 [政治]

 ソチオリンピック、東京都知事選と盛り上がっていた中、2月9日にスイスで2014年初の国民投票が9日に行われました。3つの議題で注目を集めていたのは、2つ。

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 まずは、中絶を自己負担にするか(議題の正式名称は「人工中絶は個人の問題」)というという議題。この話題はスペインでも中絶を認めるかどうかの法律が話し合われ、フランスでデモが起こり、スイスでも結構大きな話題になっていました。女性の権利、などと関連して、新聞でも「女性の権利特集」が組まれたりしていました。予想通り、通過せず。地図を見ても分かる通り、1(半)州、今でも伝統が深く残っていて(保守的な)Appenzell Rhodes-Intérieures州のみが賛成票を投じる、という結果になりました。

 そして、一番の注目を集めていたのが移民制限(議題の正式名称は「大量移民に反対」)という議題。個人的にとても興味がある議題でした。様々な国と国境を接しているため、スイスにとっても、かなり重要な話題です。この議題を提案したのはUDC(Union Démocratique du Centre)という中道・保守派の党。提案を読んでみましたが、要約すると「毎年スイスへ入国してくる外国人労働者の数に制限を設ける」という提案でした。

  不況の今、スイスでも移民への風当たりは強くなっています。が、アフリカなどからやってくる不法移民者だけでなく、スイスにはたくさんの外国人が働いています。特に、フランスやドイツ、イタリアからの労働者が、毎日越境しながら働いています。小さな国であるスイス、外国人労働者無しでは経済が成り立たない、と言っても過言ではありません。

 また、これは個人的な感覚ですが、スイスというと「中立、亡命者を保護する」というイメージがあります。これはスイス人の間でも一種の誇りでもあるような気がします。こういった誇りを守るためにも、個人的には、僅差で反対が上回るだろうと思っていました。今回の提案に賛成票を投じ、外国人にはある程度寛大なスイスのイメージを壊すことはしないだろう、と思っていました。が、その予想は見事に外れました。

 結果は、50.3%賛成で通過でした。通過するとは思っていなかった、メディア、スイス議会、投票の翌日から大騒ぎでした。投票前にほとんど報道がなかったフランスでも、かなり大きな騒ぎになっていました。オリンピックの話題などほとんど触れず、どの新聞もこの国民投票の結果を大きく扱っていました。

不思議なポスター [政治]

 以前の記事で、来週末にある国民投票の話題を書きました。その中でも各党が作るポスターについて少し触れました。そこで今回は2013年9月にあった投票で、とても印象に残ったポスターについて書いていきたいと思います。

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 こちらがそのポスターですが、上には「ローストソーセージを合法化に」と書かれています。右下には「9月22日、仕事の法律にOUI」と書かれています。最初に目に付くのはやはり大きなソーセージと「合法化」です。そのため、このポスターを初めて見たときは、「動物愛護団体が押しているイニシアティブ(提案議題)」かなあ、と思っていました。消費のために殺される動物が多いから、それに対する法律を作ろうとしているのかなあと思っていました。すると、謎なのが「仕事の法律」です。ホストファミリーとも「何の議題に対するポスターなんだろうね」と話をしていました。

 投票日が近づいてきたころ、私が読むLe Courrierというフランス語圏スイスの新聞に答えが載っていました。タイトルは忘れてしまったのですが、「ローストソーセージの法律は」といったような題で社説を載せていました。このポスターは「ガソリンスタンド営業時間延長」に関する議題に賛成のポスターだったようです。

 背景を少し説明すると、スイスのガソリンスタンドで販売出来る品物の規制緩和です。スイスのお店はたいてい18時頃には閉まり、日曜には営業していない場所がほとんどです。例外がガソリンスタンド。24時間営業しています。全てのガソリンスタンドではなく、決まった高速道路近くにあるものだけです。が、これまでの法律では、朝(1時~5時)までは野菜、ソーセージなど調理を必要とする物の販売は禁止となっていました(つまり24時間販売しているのはガソリンとその他コーヒーだけ)。夜間の従業員の苦労を減らすためです。

 日本ではコンビニなど24時間、365日営業など当たり前です。が、ヨーロッパ、少なくともフランスやスイスでは、年中無休、24時間営業する場所はかなり珍しいです。宗教的な習慣というのもあると思いますが、「人間に休みは必要。朝起きて、夜は寝るという人間らしい生活は失われてはならない」という考えがこの地域には根強く残っている気がします。

 ガソリンスタンドの規制緩和(調理が必要な物も販売可能)は、労働搾取の始まりになる、という意見が広まっていました。新聞にも、この投票可決は、「l’égoïsme de consommateur(消費者のエゴ)」に過ぎない、と強いメッセージを含んだ社説を投票前に載せていました。が、結果は賛成多数でイニシアティブは可決でした。ダムが決戦するように、ガソリンスタンドの規制緩和をきっかけに、スーパーなど他の量販店に広まる可能性がある、と反対派は懸念していたようです。

 結果的に、このポスターを作った党の望む結果になったわけです。話題として、新聞にこの「ソーセージ」がキーワードとして多く登場したのも事実です。が、果たして投票する議題を正しく伝えることが出来たのかは、かなり疑問です。数ヶ月前の投票でしたが、今でも強く印象に残っています。