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HHhH (by Laurent Binet: 2010) [読書’14]

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「HHhH」という、フランス語の本です。たまたまた友達に勧められて読んでみました。

 まず、この本のタイトルから説明することになると思います。このタイトル、「Himmlers Hirn heißt Heydrich(ヒムラーの脳はハイドリヒという名前)」というドイツ語表現の頭文字をとって、HHhHとなっています。ナチスドイツのトップだったヒムラーという人を裏から支えた、ハイドリヒという人の暗殺を試みたプラハの青年2人の物語という、第二次世界大戦中の話です。

 私がこの本に惹かれた点はいくつかありますが、一番面白かった点はこの1940年代の話と同時進行で、この小説の著者の話も出てくるからです。1940年代当時の様子が書かれた章の次に、小説を書いている2000年代の様子を描いた章が来ます。現代の章では主に、歴史小説を書く苦悩、資料集めの様子、どこまで忠実に歴史を再現できるのか、というエッセーのような感じになっていて、とても興味深いです。もちろん、大戦中に何があったか、という話も面白かったですが、私は著者のエッセー部分の方が気に入りました。私が何気なく読んでいる歴史小説ですが、どこまで創作するか、という幅は歴史小説家誰もが悩む点だと思います。小説としての創作のため、そのような「妥協」をするのではなく、徹底的に史実を追って、あくまでも忠実に再現しようとする著者の苦労を読んでいるとすごいなあと思います。少しでも微妙な表現をした章の次には、「あくまでも『たぶん』という言葉を入れたとおり、このような行動をしたことは不確定である」という著者の本音が出てくる、ということが何度もありました。

 また、著者の資料集めは、主にプラハで行われます。このヒムラーとハイドリヒがプラハを担当していたため、資料が多くあるというのが大きな理由だと思います。

 プラハはフランスと同じように、昔のままの風景がそのまま残っています。もしかしたら、フランス以上かもしれません。この街を訪れると、タイムスリップをした気分になるほど、古い建物がそのまま残っています。 1920年代に話に登場してくる時も、通りや広場の名前が今と同じ。読みながら、「あの通りのことを指しているのかなあ」と、私に馴染みのある感じがしたのも、この本を面白いと思った理由の一つかもしれません。

 この小説スタイルも個人的に好きなものだったのですが、それ以上に描写が上手いと思いました。忠実に再現しようとしているだけあって、飾り気の無い文章が続きますが、逆に映画のような1シーンをスローモーションで見ているような気がします。特にクライマックスの部分は、実質数秒から数十秒の出来事だったと思いますが、数ページ割いて描写しています。目に浮かぶような、淡々とした描写でした。

 少し蛇足になりますが、この本を読んでいる間、一つの単語がずっと頭にありました。Histoireというフランス語の単語です。フランス語では、「歴史」と「(お)話」を表す単語が同じで、histoireという単語を使います。この本を読んでいる間は、このフランス語の単語histoire(歴史/話)が、何度も私の頭の中に浮かんできました。歴史という話を作り出すのか、淡々と述べていくのか、そしてどのように歴史/話を伝えていくのか、という強いメッセージがありました。
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tommy88

原書で読んでいるんだね、高等技術だ、良いことだ。
キンドルなのだろうか、貸本だろうか、貰ったのだろうか。

歴史には難しい部分が多すぎて、資料自体の擬装もある。
後の人が悪く言わないような記述もあるだろう。
また、不利益になるような資料の処分もあるだろう。
だからどのように掘り起こし、輪郭を作るか。
創作度をどれだけ増すか、筆者の手腕になるのだと思う。
そして、それがエンターテイナーの手にかかるとベストセラーになる。
となると、表現力と校正力、そして少しの意外性をもたらす力が必要。
それらをいかにして磨くか、そこに作家のスタイルが生まれるのだと思う。
by tommy88 (2014-11-16 09:26) 

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